まずは自分たちの位置づけから始めよう。
俺たちはとりあえず顔見知りだ。どうしようもなく顔を知ってしまっていて知られてしまっていて、まあその事実に関してはとりあえず宇宙で窒息死したいくらいだがそれは置いておこう。
さて、顔見知りで、それで?
その先はなんなんだ、クラスメイトか? 友人か? 親友か?
どの可能性においてもとりあえず死んでから語りあおうと言いたいのだがあいつが原因で死ぬなんて、来世でもそれが原因で自殺できるくらいなので、まずは存在していよう。
そんなこんなで、今日も今日とて俺、東堂綾は、松原沖に振り回され―――ているもんか、あいつに振り回されるくらいならゆで卵で突き指して死ぬ。
「まあ、こんな天気のいい日に男二人で何をしているのかっていうことだよね」
色の分かるようになってきたガキがクレパスで手が汚れることも厭わずに塗ったような、ひたすらに青い空を見上げながら沖が言った。
本日は晴天。ここのところカミサマとかいう奴がいたならそいつは間違いなく沖に匹敵しうるほどの性格の悪さだと思えるほど寒かったのが嘘のようだ。改心したのかもしれない。しかし天気予報によれば明日からまた冷え込むらしい。なんだ、お前。元に戻るのが早すぎるだろう。年末についた除夜の鐘の効果は全くないのか。ないんだろう、沖の性格が年をいくつ越えてもそのままのあたり。
まあ、煩悩と性格の悪さがイコールで結ばれているかと聞かれればそうではないと答えられる。どうせなら性悪の種を消してほしい。切実に。
そんな種を消されずとも性格のいい俺は沖の『何をしているのか?』という問いに心の中で答えてやる。口には出さない。
何をしているのか。答えはシンプル。授業をさぼっているのだ。
サボタージュ、エスケープ、欠課、どう受け取るのかは教科担任の先生に任せよう。
しかし、どうして沖のやつが俺と同じ空間、具体的には学校の屋上、に居るのだろう。厳密に言うと同じ空間と言っても背中に貯水タンクを挟んでいるが。ああ、もしかしたらこいつは俺に突き落とされたいのだろうか? それとも俺を突き落としたいのだろうか。後者の可能性が高すぎてうっかり自分から飛び降りたくなる。
そんな自分の衝動を抑えるように俺も口を開いた。
「つーか俺はついてこいなんて行ってないんだが? 男二人って別に一たす一が二ってだけで俺はお前と同じ空気なんて吸ってるつもりないですけど?」
「ああ、そうかい。僕はまた、てっきり寂しくて仕方ないので沖さま、一緒に授業をさぼってくださいって言われたのかと思ったよ」
「うわ、気持ち悪い妄想だな。お前が犯罪を起こしたら納得するぜ」
「その時はお前を殺すことにするさ」
「最後に一緒に居るのがお前とか本気で気持ち悪い。あの世で鬼に同情されるとかそんなみじめなのは嫌だから断固拒否する」
「いいね、僕はお前の嫌がることがしたいんだ」
「人格破綻してるぜ」
「お互いにね」
そう言って、俺が一人苦笑したのを感じたのか、貯水タンクの裏側で沖が笑ったかのような気配を感じた。
キーン、コーン、カーン、コーン
鐘が鳴る。
終業の合図だ。また学校はがやつきだすのだろう。次の授業は出ようと決めていた俺は立ち上がる。
ああ、学校のベルに性悪の種を消す力があれば、俺たちはただの友人になるのだろうか。
それはとてもつまらなさそうだ。
結局俺たちは今まで通りの形が性に合っているのだろう。